ブロアモーターのブラシ部加工不良

 まず、ブロアモーターって何?というところから説明しないと普通の人には解らないかもしれません。
 簡単に言うと、エアコンのファンスイッチをオンにすると回るモーターの事です。FC3S、FD3Sでは設置場所は、助手席の左膝の上にあります。ただ、大きな問題は、下図のように、このすぐ近くにECU(=エンジン・コントロール・ユニット)があることです。

ブロアモーターの設置場所:

画では解りにくいと思いますが・・
矢印がブロアモーターユニットの底部です。カプラーはすぐ上にある黒2極の汎用カプラーです。

下側に白いやや大きめのカプラー3個がECUのカプラーです。
取り外しには、ECUの取り外しが必死ですが、カプラーに少しでも“こじる”力が加わると一発で駄目にすることもあり得ます。充分な注意が必要です。(=因みにこのカプラーを外すのに、こんな注意書きを添付するのはレーシングアートくらいですが、最近、二足歩行ロボットを開発しているある会員がポツリと「カプラー類は出来れば外したくないし、もし数回外す事になれば、ハーネス毎新品に交換するですよ。」と話していました。その時、『ありゃ?結構苦労してるみたいね!』と言いたかったところですが・・特に何も応えなかったのですが、解っている人はいるようです。)

ブロアモーターの中身:

手前にあるのが、ローター(電機子)です。2個あるのは、奥が60万台で7,000キロ走行、手前は40万台後半です。コミュテータ(整流子)の表面がガタガタで元々傷だらけの状態です。

奥の左がブラシ部分です。右側は電気ノイズフィルターです。(=通常のノイズはこれで抑えられるはず?)

 実際に、レーシングアートで行なう対策加工方法です。
 コミュテータ(整流子)の部分を磨く工程です。
 コミュテータとブラシを
出来る限り滑らかにします。表面が荒れていると、この部分で接点が飛んでしまい、異常なノイズ”の発生を生みます。それをなるべく抑える為に行なう処理です。
 なお、この処理でモーター自体の回転が滑らかになり、トルクも出ることは言うまでもありません。

10万台のコミュテータ(整流子)の表面の拡大図です。

コミュテータ中央は、ブラシが傷付いてその傷でコミュテータ部分も傷だらけです。
しかし、ここで見て欲しいのは左端です。ここはブラシが当たっていない部分で本来新品の状態を残しています。もちろん、ブラシを傷付けた大元の原因である“錆び”が付いてしまっているもののかなり滑らかな加工が施されていた証拠が残っています。
この時期の新品パーツはモーターの本来の姿を残していると考えられます。

その後、フォードへの合併時期を境にドンドン加工精度は落ちているように感じます。

40万台後半のモーターでは、比較的滑らかな加工になっていますが・・
モーターをきちんと製作していると思われる例えば・・日立製作所やマブチモーターの人が見れば、嘆いたり驚くよりまず
笑ってしまうことでしょう?
この加工はあまりにひどいし、手抜きもここまでくると笑ってしまうと言うことでしょうか?

※通常、旋盤加工→荒磨き→本磨きとなるはずですが・・旋盤加工のみで終わらせていると思われます。
良心の呵責か?はたまた、手抜きの言い訳のつもりか?塗装で言うクリアペイントのような加工が施されています。=これは多分、樹脂が暫くの間、緩衝材となり当たりがつく頃には、「多分、綺麗な“”が出るだろう?」と言うことでしょうか?
※しかし・・それも否定されます。カーボンブラシの加工は更に手荒いものです。

40万台のFD3Sで使用していたコミュテータ部を分解する前に外から拡大した画です。

肉眼ではここまではっきりと確認する事は出来ませんが、わざわざ分解しなくても駄目な物は駄目と解る場合も充分あります。
※このブロアはもちろん再使用不可であり、修正も不可能な状態まで深い傷が発生しています。

更に驚くのは、60万台です。
言い訳のクリアを塗っているにも関わらず、光の反射を見て貰えば解ると思いますが、旋盤による加工は更に荒いものに変化しています。
※溝の深さは、反射光ではっきり理解できる筈です。

レーシングアートによる荒磨きです。
手で磨きを掛けます。

※使用するペーパーは600〜400番です。
注意が必要なのは、“
真円”を崩してはいけない事と削りすぎない事です。あくまでも力を入れすぎず気長に行うことがコツです。

仕上げ磨き:
実際には、このサンプルでは傷が深すぎて・・新品のブロアモーターが必要でした。しかし、オーナーの金銭的都合により(?)、このまま加工する事になってしまいました。
そのため、画像としてお見せするには非常に恥ずかしい限りですが・・丁度良いサンプルが用意できずにこの画を使用することになってしまいました。
 要は・・
これでも磨きが足りない!と言うことです。

※この精度は100分の一で行ないます。(=1,000分の一を読む事になります。)
真円おける精度については、別に記載してありますからそちらを参照してください。
加工の途中途中で、マイクロメーターで確認して、真円を崩していないことを確認します。ただし、マイクロメーターを強く押しつけると折角の加工面に新たな傷を付けることになるので、測定にも細心の注意が必要なのは言うまでもありません。
※コミュテータは、銀銅製の場合があるようです。この光具合から判断するとそうかもしれませんね?純銅ならもう少し赤い光を反射する筈ですから・・こんなところにお金を掛けるのなら、加工精度にお金を掛けろ!!と怒りたくなります。

最近ではここまで磨きを掛けています。

もちろん、怠け者の私がここまですると言うのは、結果がオーナーにはっきりと理解出来るからでここまで出来ないメカニックには決して真似して欲しくはありませんし、それだけの技術で真似してもオーナーが体感出来る結果など得られるはずもありません。
※鏡面仕上げに近い状態まで磨きが必要です。(=鏡のように周りの景色が移り込んでいます。遠い過去に銅鏡で姿を映していた時代があったと言いますが・・この位の映りだったのでしょうか??)

2004年6月現在で、新品のブロアモーターを取るとこの状態です。
しかし、数ヶ月前よりは精度が上がっています。とは言ってもこのまま使用に耐えられるはずもなく、上記の磨きまで必要です。
※各新品パーツで少しずつ精度に差がありますが、単純なLOT差と考えられます。

ブラシ面:

向かって右側約1/3が当たり始めた部分です。
左側は、元々の加工面です。これを見ると本当に嘆かわしい限りです。
日本の加工技術はどこへ行ったんだ〜!!と叫びたくなりますが・・実際には、中国や南米やその他、グローバル化を叫ぶ世界工場(?)で行なっている加工なのでしょうか??

加工修正後のブラシ面:

磨き仕上げが終了したコミュテータ(整流子)の曲面に合わせて磨きます。全面が滑らかに表面を滑るように仕上げます。
特に注意が必要なのは組込作業時にキズを作らない事です。この時どんなに注意しても多少のキズは仕方ありませんが・・問題はその破片を絶対に内部に残してはいけない事です。
その破片がコミュテータとブラシの間に挟まり新たなキズを作ってしまうからです。

 本来、これらの加工精度の下落を辛うじて止めていたのは、メーカーのプライド(?)に頼っていました。モーター類は使用すると解りますが、“やはり日立が一番!”と言う声を聞いたことはありませんか?これだけ高度なコンピュータ社会、情報化社会でも、各メーカーで単純明快なモーターに性能差が出ることは本当に不思議な事ですが・・(例えば、電動ラジコンのモーターならマブチだ!とか・・実際、クルマの電動ミラーに内蔵される小型モーターの世界シェアナンバーワンはマブチモーターです。)
 「かなり厳しいプロの作業に応えられるのは、日立しかない!」などと今でも言われています。しかし、最近のコストダウン第一主義の世情では・・その日立でも結構手抜きがあったりするものです。(=今回の加工の下請けは日立ではないと考えています。多分・・外国の工場か??)

 でも、この加工メーカーを責める事は出来ないと考えています。
 何故なら、
その手抜きに気が付かないユーザーが悪い!と考えます。あなた達は、加工精度や見えない部分にお金を掛けないことに終始していませんか?

 安ければ良い!とその価値観だけで最終製品を見ていませんか?例えば、私は知り合いに絶対乗せたくないクルマがありますが、そのクルマは昨年のある時期、一番売れていましたよ!それは、皆さんが安全よりも価格を選んだからの結果ではないですか?
 もちろん、同じ商品価値で安ければ安い程良いに決まっていますが・・・実際に世の中甘くない!安ければ、それだけ手抜きがあるに決まっているのです。

 しかし、とは言っても、見えない人達には仕方の無いことです。
 ここに上げた
事実が理解できない人は、全く気にすることもなく、何の対策もする必要はありません。

 しかし、それではあまりに冷たい(?)ので少しだけ解説します。
 まず、ブラシ部分では、常に電源のオンオフが繰り返されています。その度に“
起動電位”が大きく変化しています。部屋の蛍光灯のスイッチを入れると他の明かりが一瞬暗くなる事や、その瞬間だけテレビやラジオにノイズが入ることで日常経験する起動電位とノイズの関係です。
 他のページに、『
モーターからは必ず電磁波が出ているはずなのに・・正常なクルマではあまり検出されない。』と記載しましたが、細かい説明をすると、電源のオンオフを繰り返すことで回転運動を生むモーターでは、起動電位に由来するノイズが発生して当たり前のことです。
 しかし、メーカーでは金属製の保護カバーを分厚くする事などで、どうしても発生してしまうノイズを抑え込む対策されていると考えられます。しかし、あくまでも抑え込めるノイズレベルは通常考えられる“
正常なレベル”での対策であり、異常に高いレベルのノイズは初めから考えていないと思われます。
 また、今までの経験上、発生しているノイズの防御方法をどんなに固めても、入り込んでくるノイズは抑えられない。発生源を抑えなけば、直らない!と言うことも解っています。

 ノイズが発生すると、すぐ近くにあるECUは当然の結果として、100%の制御が不可能になり、一番安全な制御に固定されると思われます。一番安全な制御=一番遅い制御になります。
 また、モーターは本来、大電力を必要とするパーツです。そのため、バッテリーに対する要求は大きくなります。正常でない、異常な高電力を常に必要とする事でバッテリー容量はドンドン低下し、ついに
12.5Vを切ってしまう瞬間が現れます。12.5Vを切ると、ECUの制御は更に安全な補正に切り替わります。更に、いっそのことずっと12.5V以下ならまだ救いがありますが、大体の場合、時々復帰します。そうすると、しょっちゅう12.5V以下の制御、12.5V以上の制御とめまぐるしく変化し、最後は、どちらかで固まってしまいます。最悪、パソコンで誰もが経験する“フリーズ”の状態になってしまい、エンジンが突然停止する。セルを回しても、セルは回るがエンジンは全く掛からない!状態に陥ります。
 しかし、この現象は一度完全にキーを抜いて、再始動すれば直る場合が多く、それでも駄目なら、ECUのリセットを行なえば、とりあえず動きます。

 しかし、この状態が決して良い状態でないことは、誰でも解る話です。最悪フリーズ、良くて・・・・
 これから先は、心臓の弱い人は読むのを止めた方が良いかも??
 ブロアモーターのこのトラブルを発見した当初、『
エンジン制御がまともでなければ・・最悪、エンジンのコンプレッションを落とす可能性がある。』と予想していました。しかし、それはあくまでも予測の範囲を出ない物で・・おまけに当初『純正部品の手抜きを何故!レーシングアートで修理する必要があるのか!』と言う怒りもあったので、皆さんに知らしめる必要もないと考えていました。

 ところが・・・出てしまいました。最悪の結果です。
 下段が走行7,906kmの時のコンプレッション測定値、上が10,236km走行後です。
 別のクルマで、電磁波を1,000km走行後と、3,000km走行後で調べましたが・・1,000kmではゼロに近い値が出ていたのに、3,000km走行すると電磁波メーターでは振り切ってしまう程に上昇していました。
フロント リア 走行距離
F8.9/9.2/9.1 255rpm R 9.2/9.4/8.9 254rpm 10,236km

F9.6/9.8/9.8 260rpm R 9.7/9.9/9.4 264rpm 7,906km

  
 最大で、
1.0キロ落ちています。ただし、レーシングアートではこれは数値上の落ちであり、実際の落ちは0.5〜0.6キロと考えています。先に述べているように測定時のエンジン回転も前回測定時より下がっていて、ブロアモータートラブルがバッテリー容量自体も下げていると考えられます。
 因みに、このクルマは新車50km走行でレーシングアートに入庫し、オイル、プラグ交換、バッテリー交換、バキュームホース対策を行ないましたが、その後やってはいけない作業をオーナー自身で行なってしまったせいで、オーナーはかなり痛い目に遭いました。その後そのトラブルを完璧に修理し、現在に至っています。一度かなり懲りているので、オーナーが隠れて(?)余計な事をすることは無いと考えれば、今回のコンプレッションの落ちは、ブロアモーターと考えてほぼ間違いありません。
 予測ではなく、現実に下がります。

 よく考えて見ると、50万台以降かなり完璧な作業をして貰っているクルマで、徐々にコンプレッションが下がる(主にスポーツ走行半年で0.3キロ前後落ちる)クルマがあります。今までは主にスポーツ走行で3万キロ走行しても、0.1キロも下がらないのが当たり前でした。イロイロ点検してみても原因が見つからずに徐々に下がっていく。それでも、オーナーは「スポーツ走行をしているから、仕方ないですよ!」と言っていましたが・・私はずっと気になっていました。その原因ももしかするとブロアモーターかもしれないと考え始めています。(=“コンプレッションの数値に見る効果”を参照してください。)

 結論として・・
 
60万台で後半になればなる程、加工精度は悪くなる一方です。本当に心配なら、すぐに対策の加工が必要です。
 
50万台では、なるべく早めに対策加工をする事をお薦めします。特にレーシングアートで“原因不明で、コンプレッションが徐々に下がる。”或いは、“完璧な慣らしが終われば、6室全てが10〜11キロに限りなく近づき、各室の差が0.3キロ以内になる筈が・・変だね?”と言われた人は早急に作業を入れてください。
 
40万台後半は、レーシングアートで完璧なクルマに近づけたオーナーは、なるべく作業してください。
 
40万台前半以前のクルマは、新品で殆ど問題はないと考えていますが・・別の理由で加工が必要になります。また、別の機会に詳しく説明しますが・・
雨漏りが原因で、ブロアモーターが駄目になります。しかし、この場合、多分新品のブロアモーターを購入し、それを対策加工する必要があります。そのため、「雨の日と晴れが続いて3〜4日後の調子が明らかに異なる!」と感じる人のみの作業になります。

 念のため言っておきますが・・自分で加工できるとは思わないでください。100分の一の精度が最低必要です。つまり、1,000分の一が正確に読み取れなければ、無理です。また、もし、加工を失敗した場合、即座にエンジンを壊す可能性が非常に高いので、止めてください。

40万台後半から、加工精度が落ちているのは、何もブロアモーターに限った事ではありません。セルモーターも怪しいし・・・
ちょうど、マツダがフォードに合併された頃に時期が一致するのは、偶然ではないと考えています。悪しき(?)グローバル化の結果かもしれません?
60万台では、出来れば1,000km走行する前に対策加工を行なう方が無難です。10,000kmを超えてしまうと、多分コンプレッションに悪影響が出始めると考えられます。また、ブロアモーター自体を新品にした上で加工する事になりそうです。このページを見て「やばい!」と感じたら、ファンスイッチはなるべく回さない方が良さそうですね。
コンプレッションが顕著に落ちるのは、例えば、レーシングアートできちんとメンテを行ない、バキュームホース対策を行ない、電気系統のトラブルをある程度修理したクルマの方があり得ると言えます。これは、他の項目でも述べましたが、きちんとパワーが出ているクルマ程、特に電気系統の大きめのトラブルが残っているのは、非常に危険!と言うことに由来します。(=逆に言えば、「パワーが出ていなければ簡単に壊れることもないので、気にしなくても良い。」と言うことになります??)

 最後に・・
 この対策の効果について、簡単に想像できる点検方法を紹介します。
 ブロアモーターに繋がっている黒2極の汎用カプラーを
丁寧に外します。(=決して上下左右どの方向にもコジルを加えないでください。=汎用なので修理は簡単ですが・・)
 次に、ECUをリセットします。リセット方法は、別の項目を参考にしてください。
 全て作業が終了して、エンジンを掛け、今まで通りの発進方法を取ってください。その時、リアタイヤは瞬間的にグリップを失い、リアタイヤの真下の地面にスリップ痕がはっきり残ります。(→
もし、この結果が出ない場合は、あなたのクルマは他に大きな電気的トラブルを抱えています。その場合は、決してブロアモーターの対策作業は行わないでください。他に大きなトラブルがあると、一部分だけをを直すことで必ず他の部分の影響がはっきり現れて、簡単にエンジン破損に繋がります。
 なお、この時のトルクアップを体感で
1とすると、きちんと作業した場合の結果は、5〜6です。(=もしかすると、バキュームホース対策より驚く結果が得られます。)